Char/Fret To Fret

スペシャルインタビューPART1

インタビュー:尾藤雅哉

 1976年のデビューから45周年という節目を迎えたCharが、16年ぶりとなるニュー・アルバム『Fret to Fret』を9月29日(水)にリリースする。レコーディングには初期3作品と同じく佐藤準(k)、ロバート・ブリル(d)が参加しており、Char自身も「デビューからの3作品に連なる4枚目」と語る注目の1枚に仕上がっている。
 現在進行形の表現者であるCharは、今が最も旬ではないだろうか。エレクトリック・ギターに出会ってから約半世紀にわたり、トップ・ランナーとして自身の表現を追求し続けてきた音楽家の最新の表現についてロング・インタビューを敢行し、その胸の内をじっくりと語ってもらった。

Charというのは
偶然のエリート・ギタリスト
かもしれないね(笑)

2021年は1976年にデビューしてから45年という節目の年ですね。改めておめでとうございます。

 ありがとう。俺が生まれたのは1955年だから今年で66歳になるんだけど、考えてみたら太平洋戦争が1945年に終わってから自分が生まれるまで10年しか経っていないんだよね。で、エレキ・ギターも同じ10年間の間に広く世の中に知られていって、それまでには存在しなかった楽器によって新しい音楽もたくさん生まれて、しかも世界中でヒットしたというのは歴史上で初めてのことだったんじゃないかな。そういう意味では、物心がついた頃からエレキ・ギターやロックンロールと同時に育ってきちゃったから、ある意味ギターの申し子というか……半世紀以上にわたり、エレキの歴史と同時進行で今に至るという感じだよね。

スタジオ・ミュージシャンとしてプロとしてのキャリアをスタートさせた1971年(※当時Charは中学3年生~高校1年生)から数えると半世紀になります。

 そう考えるとエレキ・ギターを弾くことがずっとライフワークになっているよね。今でも毎日ギターを弾いているし、毎回手にするたびに新しい発見をするからさ。そうやって思い返して運が良かったと感じるのは……生まれたのが“1955年”だったということ。端的に言ってしまえば、俺よりも少し年上の“団塊の世代”に比べてギターを練習する時間が多くあったということに尽きると思う。エレキ・ギターを使った音楽がどんどん進化していって、情報が追いつかないくらい素晴らしいアーティストがたくさん出てきた時代だったから、ギターを練習するという意味では次から次へと新しい教材が出てきたんだよ(笑)。5歳年上の兄貴がいるんだけど、彼らの世代とは違って俺はベンチャーズやグループ・サウンズ、ビートルズ、ローリング・ストーンズ、もしくはクリーム、(ジミ)ヘンドリックスだけでは終われなかった。少し大袈裟に言えば、団塊の世代はエレキと出会ってから2~3年ほど練習しただけでデビューするパターンが多かったと思うんだけど、ギターを弾くプロとして食っていくために必要な技術を磨くという点において“1955年生まれ”というのことが味方してくれた気もする。10代で始めたセッションマンの仕事も、ロックはもちろんプログレやカントリー、ブルーグラスまで幅広い奏法テクニックを求められたりもしたから、ギターを弾く仕事でありながらいろんな音楽を吸収できたし、技術を磨く練習にもなったからね。そういう生活が20歳くらいまで続いたというのは大きかった。だからCharというのは“偶然のエリート・ギタリスト”になるのかもしれないね(笑)。当時、レコードを通じて出会う先生がすごかったという。

今も時を超えて聴き継がれている名盤をリアルタイムで体感して、いろんなものを吸収し続けていたんですね。

 そうだね。例えばクリームのエリック・クラプトンが弾く「クロスロード」(1966年)のコピーには本当に時間を費やしたんだよ。もしこの曲がなかったら、ギタリストではなく医者になっていたかもしれない(笑)。あの12小節を5回しするソロを自分の耳で完コピできたのは、やっぱり向き合う時間があったからこそなんだよね。当時、兄貴たちは就職だなんだって理由もあって諦めていたからさ。

なるほど。エレキ・ギターの構造は開発されてから大きく変わっていないのに、表現方法がこれだけ多岐にわたる楽器も珍しいですよね。

 エレキ・ギターってアンプがあって初めて意味を成す楽器だから……もしも変わっていったところがあるとしたらそっち側(アンプ)なんじゃないかな。もしくはエフェクター。特にギターとアンプの真ん中に挟まっている機材は、俺がガキの頃に比べて何十倍にも増えているしね。

たしかに。さて今回は『天邪鬼 Amano-Jack』(2005年)以来、16年ぶりとなる新作『Fret to Fret』について話を聞かせて下さい。リリースに至る経緯は?

 2010年に新レーベルの“ZICCA RECORDS”を立ち上げて、最初はTRAD ROCKシリーズ(※エリック・クラプトンやジェフ・ベック、ベンチャーズ、ビートルズなど自身のルーツとなったミュージシャンの楽曲をカバーしたコンセプト・アルバム群)を一気に作って、気がついたら60歳になって還暦企画盤みたいな『ROCK+』(2015年)を作って。ただ、その間も新曲はずっと作っていたんだよ。アコギとパーカッション&ウッド・ベースみたいな最小限の編成によるセッションから曲のイメージを膨らませてみたり、狂ったように打ち込みでビートを作ってアホみたいなロックをやったりとか(笑)。そういう意味ではレーベルを立ち上げてから10年分のいろんな素材がたくさん溜まっていて、それをひとつの作品として成立させようと動き始めたのが3~4年くらい前になるかな。

改めてどんな作品にしようとイメージしましたか?

 俺の中では、1976年に発表した1st『Char』、2nd『have a wine』(1977年)、3rd『THRILL』(1978年)に続く4枚目のアルバムって位置付けになるかな。というのも45年前の1枚目のアルバムも、デビューするまでに過ごした経験の蓄積をアウトプットして作っているんだよね。小学生の時にギターを弾き始めて、スタジオ・ミュージシャンをやりながら青春時代を過ごし、アメリカン・スクールに通う外国人の友人たちと一緒にバンドをやったり、ロンドンやLAに行ったり、ロックだけでなくアース・ウィンド&ファイヤーみたいなディスコ、スティーヴィー・ワンダーやダニー・ハサウェイのようなR&B、ジョージ・ベンソンやボズ・スキャッグスみたいなフュージョン/AORから影響を受けたり……そういうさまざまな経験の延長線上にある作品なんだよね。ロックでもソウルでもない“Charのオリジナル”を目指していって「Smoky」や「SHININ' YOU, SHININ' DAY」が生まれた。今回のアルバムも同じで、2010年に自分のレーベルを立ち上げてからこれまでに作ってきた数百とある新曲の中から、ラジオからもテレビからも流れてこない“自分が聴きたい音楽”をまとめてひとつの作品にしたんだ。人はどう思うかわからないけど“俺はこういう音楽が聴きたいから自分で作ってしまえ!”って感じでね。

PART2へつづく▶︎